札幌市教育委員会では、札幌らしい特色ある学校教育というテーマで『雪』『環境』『読書』の3つがあります。その中の『雪』を生かした教育として、小学校ではスキー学習が実施されています。
本日は、札幌国際大学の安井政樹 准教授に、スキー学習についてお話を聞きました。安井さんは、20年間の小学校教員を経て、現在は札幌国際大学の准教授として教職課程の科目や学生の学びの基盤となる科目などを担当し、他にもNHKの教育番組などの監修もしている教育のプロフェッショナルです。
【安井 政樹准教授プロフィール】札幌国際大学のホームページ 安井准教授プロフィールはこちら
学部・学科名:札幌国際大学 基盤教育部 准教授
専門分野:
・インクルーシブ教育、特別支援教育
・情報教育(ICT活用、生成AI活用、GIGAスクール、放送教育、視聴覚教育)
・道徳教育
・学校教育(幼小連携)
・教育工学
・教師教育
略歴:最終学歴:
・北海道教育大学教育学部函館校小学校教員養成課程教育学専修
・北海道公立小学校 教諭
・北海道教育大学教職大学院
・札幌市立小学校 教諭
【鈴木】安井さん、本日はよろしくお願いいたします。当ショップで調査したアンケート「スキー授業に賛成?反対?」の結果によると、賛成が84.5%、反対が15.5%でした。
教育に関わる立場から、安井さんはスキー学習をどのように考えていますか?
【安井准教授】私は、スキー学習は塾や習い事などと同じで子どもの未来への投資だと考えています。スキー技能だけではなく、色々なことを楽しみながら学べます。
例えば、社会性の成長の面では、ゲレンデのルール(合流や滑り出すときはまわりをよく確認する、前の人に近づきすぎない、上から見えない場所で座らない、などなど)を学ぶことで、状況に応じた危険を回避する方法が身につきます。
また、子ども同士の助け合うことも学べます。スキー授業は1クラス15~25名の子どもを先生1人+保護者ボランティアで行うことが多いです。先生も全ての子どもを見てはいますが、直接手助けができないこともあるので、子どもが転倒などして止まった場合は、子ども同士が助け合う必要があります。
学校によっては、上手な子は上の学年と一緒にやったり、一番後ろで滑って前の子をフォローしたりします。差があるのは当たり前。違いを活かして助け合うことを学べます。
社会性以外にも自然との触れ合いで感性を育み語彙を豊かにすることもできます。例えば、"風を切る感覚"や"しんしんと降る雪"など。北海道ならではの体験から多くの言葉を獲得し、豊かに自然を感じることもできます。
【鈴木】私もボランティアスタッフとして、子どものスキー学習に参加したことがありますが、前の子どもが転んだときに、後ろの数人で助けていました。
確かに、日常生活をしていても、複数人で協力して誰かを助けるということはあまりないですよね。
【安井准教授】そうですね、さらに言うと、子どもたちの投資以外にも"地域の未来への投資"とも考えられます。日本では30年前、1770万人いた日本のスキー人口も2021年には200万人と激減しています。
しかし、北海道のスキー場は、海外の旅行者からかつてないほど人気です。インバウンドにより、ニセコ、キロロ、手稲など、北海道ならではの素晴らしい雪を体験しに多くの旅行者が来ることで、スキー場だけではなく周辺施設でもお金を使ってもらえます。
もし、スキー人口の激減と共にスキー学習がなくなっていた場合、スキー場が潰れてしまっていた可能性もあります。スキー場がなくなると、今みたいに海外の旅行者が来なかったかもしれません。
また、スキー学習を通して、スキーのよさを感じた子供が大人になったときには、新たな事業を作る起業家が出る可能性もあり、観光資源としての未来に大きなプラスになると考えます。
【鈴木】盤渓スキーなど、札幌市中心部から近いスキー場でも、アジアからの観光客が目立ちますよね。数年前には見なかった光景です。
【安井准教授】さて、子どもの成長に話を戻すと、スキーは自分自身の成長を感じやすいスポーツです。
例えば、最初は自分1人でスキー板を履くことができなかった子が、スキーを履いて歩けるようになる。もう少し上手になると、同じ山で「転ばなくなった!」「滑れるようになった!」「足を揃えて曲がれるようになってきた!!」等の自身の成長の感じやすいです。
学校のテストだと、知識が身について点数が取れるようになっても、学年とともに問題が難しくなり、点数としては成長が感じにくいです。
その点、スキーは過去の自分と比べて成長したことがわかりやすい。できなかったことができるようになるという点では、スキーはとてもわかりやすいです。
しかし、保護者としては、スキーの成長がテストの点数のように数字でわかるものではないので、把握しにくいかもしれませんが…。だから、スキー授業にかかる費用に対しての価値が感じられないのかもしれませんね。
【鈴木】そうですよね。スキー授業を反対する理由で一番多かったのが、"費用の負担"です。スキー授業の費用に関しては、先生方はどのように考えていますか?
【安井准教授】教員側としては、ドリルなどの教材を購入するときに、保護者の負担が少なくなるように10円でも安いものを探しています。しかし、学校にもよりますが、スキー学習のバス代やリフト代だけで約5,000円も負担していただくことになります。こう考えると負担は大きいです。さらにスキー用品の購入費用もありますからね。
それでも、少しでも保護者の負担額を少なくできるように、バスの台数を減らすため1台で2往復したり、バス代が高い時期を外して予約をしたり工夫をしている学校もあります。
【鈴木】そのような工夫をされているんですね。全く知りませんでした…。
次に反対理由で多かったのが"スキーの安全面"です。安全性に関してはどのような対策を行っていますか?
【安井准教授】安全面でいうと、先生たちは事前にスキー場へ行き、下見をしたり、研修をしたりしています。下見の際に、スキーを安全に脱ぎ履きする場所、安全な休憩場所、トイレの位置などを確認しています。
また、当日は子どもの体調管理に十分に気をつけ、それでもスキー場で問題があった場合は、校長など学校で待機してる先生といつでも連絡取れるように準備しています。
【鈴木】こうやって聞くと、先生方はスキー授業のために時間をかけて準備してくれているんですね。私も札幌産まれ札幌育ちなので、スキー学習を受けていましたが、怪我をした友人は見たことがありませんでした。
【安井准教授】はい、もちろんすべての教員がというわけではありませんが、北海道ならでは授業ということもあり、積極的に取り組んでいる先生が多いです。
【鈴木】最後に保護者に伝えたいことがありますか?
【安井准教授】スキー学習に限ったことではありませんが、教師と保護者が教育をするパートナーになり、子どもの成長・喜びを分かち合えるのが理想だと考えます。
そのため、ボランティアスタッフとして参加したり、子どもの成長を一緒に見てあげれるのが理想。ただ、難しいことも理解しています。そんな中、1人1人できることがあります。
それは声かけです。『今日スキーに行けてよかったね!頑張ってね!』と送り出だすと『楽しかった♪』と帰ってくる。
逆に『スキー嫌だよね、寒いよね…』と言って送り出されると『寒かった、つまらなかった』と帰ってくる。ポジティブな声かけをしていただくだけでも、十分スキー学習の協力になります。
今や北海道の雪山を目当てに、海外から高い交通費を払って来る方が多くいます。スキーを体験するために、わざわざ飛行機に乗って札幌に来る修学旅行生もたくさんいます。私たち札幌市民は、車で少し行けば雪山に行ける。こんな良い環境、使わないのはもったいないと思います。
【鈴木】ポジティブな声かけ大切ですね!安井さん本日はありがとうございました。